Craftsman来て見て体験演者
上坂 直子
白山通りから西片側に入ったあたり、昔ながらの面影も残る閑静な住宅街に、ジュエリー作家の上坂直子さんのアトリエである「石彩」がある。「石彩」は、彫金、木目金技法、アートクレイシルバー、メタルエンボッシングなど、自分がやりたい技法でアクセサリー制作を楽しめるジュエリー教室となっており、体験ブームの今、上坂さんの多才な技術は、工芸に憧れる女性達から熱い眼差しを受けている。「石彩」でとりわけ特徴的なのは、日本の伝統的な技法である木目金(もくめがね)。この世にふたつとして同じ文様ができない、その木目金技法の魅力を語っていただいた。
「幻の技術」と呼ばれた木目金の世界
木目金とは、銀や銅など色の異なるバラバラの金属を幾重にも重ね合わせて火を加え1個のブロックにし、彫りや捻りなどを加え、木目状の文様を作り出す、日本独自の伝統的な技術である。上坂さんにその魅力は?と訊くと、「同じ文様が2個出ないこと」という返答。「作り手さんによって、全部違う文様になるというのが面白い。この世に一つしかないものができるのです。同じ形をしていても文様が全部違う作品ができるので、『どっちの文様がいいかな?』って、みなさん悩まれる。そんなところも楽しいですね」と上坂さん。
もともと木目金の興りは、約400年前の江戸時代初期、刀装飾の職人だった秋田の正阿弥伝兵衛 (しょうあみでんべい)によって考案された技法だといわれ、刀の鍔(つば)に用いられたのがそのルーツだといわれている。後の江戸時代中期にその技法は、江戸(東京)へと舞台を移し、高橋派の初代・高橋正次が活躍し、その門弟である高橋興次が木目金の技術を完成させたといわれている。しかしながら、やがて廃刀令などの影響で木目金の伝承は一度途絶え、「幻の技術」と呼ばれるようになった。
「廃刀令で、それまで刀のつばを作っていた職人さんが、キセルとか小物を作るようになって、それらの製品が戦争で海外に流出したそうです。その後海外でも、MOKUMEGANEとして知られるようになったそうです」と、上坂さんはいう。
木目金の指輪
手仕事を駆使する木目金のつくり方
木目金の地金は、銀や銅などの色の異なる金属を幾層にも積み重ねて結合させたものだ。まずは、金属板の表面を洗浄し、銅板と銀板を交互に重ねて、加熱し結合させる。
木目金の伝統的な文様の作成方法は彫りによるもので、たがねを使って何層か掘る。その後表面を平らにするために金槌で叩く。この彫りと、圧延を繰り返すことにより、世にも不思議な木目金独得の文様が出来上がっていく。
「彫って、叩いて薄くして。また叩いて、薄くして。その過程に何回も火を入れてあげないと、叩き方ひとつでバリッと剥がれてしまいます」と話す。
材料になる銀板と銅板。右はそれらを結合させた地金。
地金に火を入れる。
地金をリューターで彫る。
プレス機で圧延する。
ローラーをかけると下の層の文様がどんどん浮き出て見えてくる。
製作途中の文様(左下)と、木目金の作品。
金沢の職人の血が私をジュエリー制作者にさせた
もともと普通の経済学部の大学生だった上坂さん。両親ともに金沢の生まれで、加賀の職人の家系。そんな血が流れている上坂さんであるからこそ、この道の厳しさも全く苦にはならなかったという。
ジュエリーのリフォームや加工を手がけていたが、作家としての壁にもぶつかったという。
「催事という世界に出てはじめて武器がないとダメだということを痛感しました」そこで、彫金の伝統的な技法をいろいろ探っているうちに目を奪われたのが、当時、世の中にまだ広まっていなかった木目金だった。
伝統技法を使い新しい世界を追求
以降、修行を重ねて木目金の技法を駆使し、活動の場をデパートの催事で展開してきた上坂さんは、コロナ以降の現在は、「石彩」のジュエリー教室で教えることが中心になっている。
「私のスタイルは、技術をしっかり習得するというよりは、自分の納得できる作品を作りたいという人向けにやっています。糸鋸を真っ直ぐに切るとか、ろう付けをきちんとするなどの基礎はもちろん伝えていますが、作る人が自分の味を出せる作品を作れる場所でありたいと思っています。ただ、アクセサリーをつけたときに壊れない、自分や相手を傷つけないための指導はしますが、基本は好きなものをつくって楽しんでいただければ嬉しいです」と語っていた。
上坂 直子
1969年東京都生まれ。大学在学中より、彫金を専門学校で学び、卒業後はジュエリー制作会社に勤務。5年間の修行後、自らのブランド「石彩」をオープン。その後、百貨店の催事を主な販売先としてジュエリー制作を続け、現在はオリジナルジュエリー・木目金製品の製造・販売、各種ジュエリー教室を行なっている。
厚生労働省認定 貴金属装身具制作1級技能士、職業訓練指導員免許、ものづくりマイスター認定、全技連マイスター、東京マイスター、文京区伝統工芸会会員など、他様々な技術の認定も持つ。
問い合わせ先:shikisainao@gmail.com