Craftsman来て見て体験演者

土の声を聞きながら
シンプルなフォルムと自由な色彩を追究
渡辺みゆき
陶芸作家

渡辺みゆき

文京区千駄木二丁目。不忍通りから西に少し入った場所にあるのが、あがの陶房。大通りの喧騒を離れ、住宅街へと続く静かな一角ですが、最近ではカフェやスイーツのお店も見られるおしゃれなスポットです。都会のマンションの一室にろくろと電気窯を備え、シンプルで洗練された器づくりに励むのは、陶芸家の渡辺みゆきさん。土の持つ個性や魅力を生かしながら、常に土と釉薬の相性を追究し、自由な発想でものづくりを続ける作家です。


やさしさを感じる

シンプルなフォルムの器づくり

 

渡辺さんの作品の特徴は、奇をてらわないそのシンプルなフォルムが、モダンで繊細な色彩と気品をまとっていること。使う人は、暮らしの中で手に取る度に、そのやさしさと温もりをほのぼのと感じることになる。渡辺さん自身、「私はフォルムを大事にしています。持ったときの丸みの感じとか、やさしい感じの器が好きですね」という。制作アイテムは、もっぱら食器。「手に取って使って欲しい器を作っています。もともと美術学校を出た訳ではないので、アート作品を作ろうとは自分では思っていません。ろくろを引く練習を続け、茶碗を作り続けてきました。」という。

渡辺さんが憧れるのは、ルーシー・リー(19021995)というロンドンを拠点にして活動した女性の陶芸家。シンプルでモダンなフォルムに、独自の釉薬や装飾を施すことで工芸とモダンデザインの橋渡しをした作家といわれている。「作品を見ると、アンシンメトリーでふわっと浮いているような形だったり、ちょっと歪んでいても、その歪みがとても調和が取れているのが不思議で魅力的です。それで、彼女の釉薬使いの表現がどうしたら出せるのかなと思って、その調合の謎を解こうと探求もしました。古い作家なので、同じ原料は手に入らないのですが、自分なりに工夫しています」と語る。

 

日常使いの食器

 

発色を一番に考えて

土を選び釉薬と組み合わせる

 

渡辺さんの話を聞いていて感心させられるのは、作家としてのその飽くなき探究心だ。「いつもこういうのをやってみたいなという発想は、他の陶芸作品だけではなくて、絵画を見たり、自然の中から色や形の着想を得ています。ある時きれいな色のカミキリムシを見つけて、『なんてやつだ!』と思って、釉薬を探して調合したり、自分で工夫して自然界の色に近づけてみました。ひたすら同じものを作る職人さんとは違って、私は遊んでばかりいる陶芸家ですね」と笑う。

渡辺さんが開発したブルーの色彩のシリーズは、気に入ってくれたリピーターも多く、作り続けている作品にもなっているという。「ただこの青の釉薬をどの土に掛けると狙った色になるのかはまた別の問題で、同じ釉薬でも白い土にかけたり、茶色い土にかけたり、成分が違うとまた別の色になるので、釉薬と土との相性を探るためのテストを繰り返していきます」と、実験しながら遊んでいるのだそうだ。「私の師匠は、決まった土でひとつの作風を追及する作家でしたが、私はそういった我慢比べはできなくて(笑)、飽き性なのでいろんな作品を作るようになりました」と語る。

 

同じ釉薬で土を変えたり、同じ土で釉薬の配合を変えて焼いたサンプルピース。

 

あがの陶房の築窯から

文京区への移住

渡辺さんの生まれは京都で、親の仕事の都合で高校から関東に来た。もともとは作家になろうとは思っていたわけではなく、短大を卒業して20歳から8年間広告代理店の営業をしていた。ところが体調を崩したため退職し、埼玉に暮らす母が通っていた陶芸教室に通い始めたという。土に触って健康を取り戻した渡辺さんは、陶芸を仕事にするために修行をしたいと思い、青磁作家の伊東祐一氏(日本伝統工芸正会員)に師事。師匠の助手をしながら、2年間通い弟子をして、ガス窯でも焼けるようになったという。そして3年経った頃に場所を探して、1997年、埼玉県飯能市吾野に山間の一軒家を借り、自分の窯であるあがの陶房を築窯した。

当時は、作ったものをクルマに積んで売りに行ったり、カルチャー教室で教えたりしていたが、師匠の紹介で始めた仕事に作業療法の講師という職もあった。「作業療法のひとつに陶芸があります。粘土は、その人の力に合わせられる素材だし、指先の力を使う作業なのでリハビリには最適なのです。自分自身もその効果を実感していたので、リハビリのための陶芸教室は自分のライフワークになりました」と語る。

その後、2006年に、都会でありながら下町の風情がのこっている文京区根津界隈の土地柄が気に入って窯を移した。「飯能にガス窯を持っていた頃は、灰が手に入るので、灰が流れて火の色が移るような素朴な作風が多かったのだが、文京区に来てからは、磁器の薄手の作品とか、カラフルな色彩のものとか、作風もこちらに来て変わりましたね」という。

菊練り

 

土殺し(芯出し)

引き上げ(成形)

焼き上がりの収縮率を計算して大きめに成形

土の声を聞き

土の気持ちに応えたい

渡辺さんが現在使用しているのは、岐阜の多治見等の土が多いそうで、「自分が京都出身というのもあるかもしれませんが、西の方の土が手になじんで、引きやすいですね。好きな作家を見つけると、『どこの土を使っているのかな?』とか、追究しても果てしないのですが、やっぱり楽しいです」という。

渡辺さんにとっての最大の相棒は、やっぱり土であり、その土が自分の言うことを聞いてくれるのかどうか、つねに土と会話しながら器を作る時間がたまらなく愛おしいのだという。

「土に、『あなたは、どうなりたいの?』って訊くのです。それに一所懸命応えようとするのですが、それでもうまくいかない時には、『これ、嫌なのかな?今日はもう作業やめようかな』って(笑)。土は、『水の量が違うよ』とか、『あなたのやろうとしているのはちょっと違うよ、そんなに薄くは引けないよ』とか、教えてくれます。それで厚く引いてうまくいったら、『この土はそうして欲しかったんだな』と。土がちゃんと応えてくれたら、『ああ、これだったのね』って嬉しくなって、やっぱりやめられなくなりますね」と笑う。

渡辺さんは、そんな土の面白さを少しずつでもいろんな人に伝えていきたいと思っている。「陶芸教室ではお年寄りも走り回っている子どももいますし、みんなで一緒になってやればいいかなって思います。実家の京都で、工房と教室、民泊を兼ねた一軒家でも持ってやってみたいですね」なんてことも夢想するという。

渡辺さんの作業を見ていて気づいたことがある。その顔がいつも笑っているのだ。土の声を聞くこと、その喜びが身体の芯から湧いてくるのだろう。

 

 

渡辺みゆき

文京区伝統工芸会会員。文京区技能名匠者認定。
京都府宇治市生まれ。東洋大学短期大学部卒業後、PR会社で営業職に従事。1994年陶芸に出会い、伊東祐一氏(日本伝統工芸正会員)に師事。3年間の見習いを経て、1998年に埼玉県飯能市にて築窯。あがの陶房陶芸教室を主宰する。2006年東京都文京区に移住。根津陶芸教室開始。2017年文京区技能名匠者認定。埼玉県美術展入選をはじめ個展・グループ展多数。カルチャースクール、高齢者施設、就労継続支援B型事業所等にて講師を務めている。

所在地:文京区千駄木
問い合わせ先:https://aganotobo.com/