Craftsman来て見て体験演者

価値観をデザインし、創る喜びを知る
そして、持つ人の心の幸せを感じる
角江 千代治
彫刻家・宝飾品作家

角江 千代治

文京区千駄木にmuseum of tenshi WING WINがある。天使に温かく見守られているような感覚になるこのギャラリーには、天使をモチーフにした作品など、数多くの宝飾品を生み出してきた角江千代治さんの作品が数多く展示されている。彫刻家・宝飾品作家生活53年。80歳をとうに超えて、さらに創作のエネルギーが増しているという角江さん。そのものづくりのインスピレーションを聞きました。


天職と出会い

道を確信した30

角江さんの創作の原点は京都で始まっている。社会人となり、建築の仕事をしていた角江さんの人生を変えたのは、日本を代表する実業家・経営哲学者で京セラの創業者である故稲盛和夫氏との出会いであった。当時京セラでは、セラミック製造の副産物からできたコランダムという人工宝石の事業化を考えていた。「僕は建築業界からたまたま稲盛さんと知り合っただけだったのですが、『専門家は、合成宝石なんか目もくれないが、君なら純粋な目で本当にいいものを見られるから』と誘われたのです」

京セラが配下に入れた東京の宝飾品会社のデザイン室長になった角江さんであるが、当初は自分の人生を建築物と比べると1万分の1という小さな宝飾品の世界に本当に賭けていいのだろうかと疑問に思っていた。そんな中、ある大阪の小売店の店主がこんな話をしてくれたという。「当時僕の作品が置いてあるショーウィンドウを毎週日曜日に見に来るお客さんがいて不思議に思っていたが、一年後にやっとお店に入って来て、『これが売れませんようにと、毎週拝みに来ていたけど、やっとお金が貯まって買いに来ました』と言ったそうです。僕の作品を手にしたその人の顔は、言いようのない幸福感に包まれていたそうです」

転職して3年。そんな話を聞いて、これは僕が人生を賭けて取り組むべき仕事だと吹っ切れたのは、30代の前半だったという。

代表作 夢人

 

 

 

 

ものづくりのための

3つの哲学

そして、京セラ退職後は、自らのブランドであるアンジェリクを立ち上げて今に至っている。その道の中で、稲盛氏の影響を受けながら、自分自身の哲学を持ったのだという。

「自分の作品のコンセプトとしたのが、『価値観をデザインする』、『創る喜びを知る』、そして『持つ人の心の幸せを感じる』、この3つの言葉を支えにして、この53年間創作してきました」と角江さん。

「この地球ほど素晴らしい星はない、価値のないものなどこの地球上には存在しない」と角江さんは言い、この地球の素晴らしさをデザインすることが、価値観をデザインすることにつながると角江さんは考えている。「デザインというのは、単に□を○にすることではなく、いかに価値を表現できる形を思いつけるかどうかが大切だという思いに至ったのです」と。

そして、価値観をデザインすることで、よりいっそうの喜びを表現することになり、それが社会に役立てられることになる。「僕が創る指輪一本で、いかに人の人生を変えられるかということをこの53年間、数々体験してきました。自分が楽しく幸せを感じながら創らなければ、それが持つ人の心の幸せの形にならないということです」

 

天使が戯れる

角江さんのモチーフ

角江さんの作品のモチーフには、西洋の宗教的なモチーフも数多く登場する。仏師を目指し京都に住んでいた時に、マリア像を彫ってほしいという依頼があったのがきっかけだという。「仏像を彫ったことはあるけど、やれるもんならやってみよう」

という思いで彫ってみたら、仏像を彫る時にはない、なんともいえない気持ち良い感覚があったのです。それからというものマリア像を一心に彫り始めました。

興味の対象が変わってきた角江さんは、ある時イタリアに行って、天使のモチーフに出会った。「向こうは本場ですから、天使の彫刻がいっぱいあって興味を持ちました、何でもイタリアには、天使学という学問があって、誕生日によって守護天使が決まっているというのです。ミラノの本屋の地下の天使コーナーで本を買って調べてみると、6月5日の私は、『広報』という役目の守護天使だそうで、それを知った時に、『自分はジュエリーのデザインで天使のことを人々に伝えることが役目なのだ』と、腑に落ちたのです」

インスピレーションで浮かんだ形をスケッチ

 

 

 

 

ワックスで原型を彫る

即興で書いたデザイン画を見ながら最後の仕上げをする。 仕上がったものを絵の上に置いて重ねてみると、毎回ピッタリのサイズに出来上がるのは熟練だからこそなせる技。このデザイン画は一緒にプレゼントしてくれる。

ろう付け

角江さん曰く

吾、八十にして開花する

2026年には84歳を迎える角江さんは、この歳になって、新たな創作の境地を迎えているという。それは孔子でさえも表現していない、八十で開花するインスピレーションの境地である。

「孔子の言葉では、三十にして立つ、四十で惑わず、五十で天命を知る、六十にして素直になり、七十にして成すこと全てが正しくなる、で終わっています。では八十はどうなるのでしょうか。これは、自分の勝手な感覚ですが、八十にして神を知ると浮かんだのです。それは、八十にして開花するという感覚で、自分でも不思議なのですが、デザインするものが全部インスピレーションで降りてくるようになりました。オーダーの時に、お客さんの趣味から聞き始めて、簡単な質問に答えてもらうと、紙にパパッと描いて色を付けるまで5分もかからずに、『浮かびました』となる。それも一つしか浮かばない。何故かはわからないけど、ただ自然に浮かんだものを絵に描いただけと答えるしかありません」と微笑む。

角江さんは、さらに続ける。「地球上には、いろんな生き物がいて、本当に美しい姿かたちをしている。その美しさは、進化論では説明できないと僕は思っているんです。だからやっぱり神というデザイナーがいるんじゃないかなと。そういう目で世の中を見ると、本当に不思議なのです」と、まさしく角江さんはその不思議を表現している。

「金は高すぎて使えないので、今年に入って銀の魅力にも目覚めています。金にはない銀の魅力を形にすること。それは僕自身も楽しみなのです。今は、どういうものになるのか、僕自身もわからない。一年後にまたお会いできれば、こんなものになりましたよって報告ができると思います」

そう再会の含みを密やかに残して、角江さんの話は終わった。

角江 千代治

1942年生まれ。1973年、彫刻・建築デザイナーから、ジュエリー界に入る。1981年、渡米、ニューヨークで活動。1983年、帰国後、アンジェリク ブランド展開。1998年、松屋銀座アートギャラリーにて【角江千代治(天使の宝飾品)】個展開催。以後個展を数多く開催。2021年・2023年・2024年、ルクセンブルクアートプライズにて芸術功労証書授与。2022年、文京区技能名匠者に認定。2024年、museum of tenshi WING WIN 設立にCHIEF DESIGN OFFICERとして参画。​

所在地:文京区千駄木(museum of tenshi WING WIN)
問い合わせ先:https://chiyojisumiye.com/