Craftsman来て見て体験演者

その人の身体機能に即した
足の悩みを解決する靴づくり
佐藤 一男
靴職人

佐藤 一男

佐藤一男さんがオーダーメイドで作るアルスの婦人靴は、イタリー製の高級革を使用したお洒落でハイセンスなブランド。この道一筋70年近くに及び、今まで何万という足を直に触って靴作りをしてきた。人の足に触れるだけで、骨格の特徴や姿勢、歩き方の癖など、その人が持っている靴に関する悩みを即座に理解して、その問題を解決するための靴を作っている。佐藤さんはその技能で障がい者のための靴作り支援も行っている。


人の足に寄り添う

佐藤さんの靴作り

佐藤さんの靴作りの特長は、お客様の足形を自分できめ細かく計って、お客様の要望に応じて、全部オーダーメイドで作ること。「生地はイタリーの革が多くて、中には一足しかとれないものもある。他の誰も履いていない自分だけの一足となる靴を作っています」と、佐藤さんは胸を張る。

通常このようなオーダーメイドの靴を作ろうとすると、木型代だけでも10万円近くにはなるが、佐藤さんの場合は、今までストックしてきたトランクルーム3個分にも及ぶ木型を全部自分で持っているので、いただくのは靴の代金だけだという。人の足の形は千差万別で、甲が上がっている人、薄い人、左右の大きさも違っていたりするので、まさに十人二十色。あとはお客様が「これが欲しい」という形に合わせてデザインを描いて、紙型を裁ち、木型に紙を貼って絵を描く。こうして作った木型で仮合わせをしてOKだったら、底とかかとを付けて納品する。納品した後はアフターフォローをしっかり行う。「歩いているうちにクセが必ず出るので、靴も変形します。そういう時は、全部革で調整して差し上げます。スポンジでやると一時的にはフィットするかもしれませんが、痩せてしまうからです。足に汗をかくことにより革は伸びるので、その時にまた調整するのです」

それが佐藤さんの靴作りのポリシーであるという。

制作中のユニバーサルデザインの靴

オーダーメイドの技能で

つくしの会を支援

そんな佐藤さんが現在力を入れているのが、つくしの会(全国軟骨無形成症患者・家族の会)への支援だ。この会は軟骨無形成症をはじめとする小人症(低身長症)の当事者・家族を中心にした全国的な患者・家族会で、佐藤さんは「おしゃれな革靴を履いて歩きたい」という患者さんの切実な願いに寄り添って、東京に来てもらったり、時には地方にも出向いて足型を計測し、オーダーの靴を提供している。

「障害者の方ですので、左右の足の形がちがったり、長さが違ったり、外反がひどい方もいます。僕は靴職人ですので、大手メーカーには対応できない靴作りができているのです」という佐藤さんを突き動かしているのは、やはり多くの人に足の悩みから解放してあげたいと願う、根本的な人としての優しさだろう。

「やっぱり『良かった』と言われるのは嬉しいですよね、スニーカーしか履いたことのなかった人から、『こんな靴が履けるようになるとは、夢にも思わなかった』なんて言われれば最高ですね」と佐藤さんは微笑む。

佐藤さんが開発した中に鼻緒のある靴

靴職人としての

運命的な生い立ちと出会い

佐藤家の靴の製造は、佐藤さんの父親が文京区で始めて、2023年で創業百年を迎えた。

佐藤さんの生まれは本郷。震災で焼かれる前は富士神社の防空壕に入ったことを憶えているという。「戦災で焼かれて、新潟の村上がお袋の実家だったので、そっちに移った。親父は戦地から帰って来たけど、生活が貧しかったから、中学を卒業して丁稚小僧に出て靴職人の修行をした。親父は職人気質で一切何も教えてくれなかったよ。私が東京に来たのはオリンピックの前の年の1962年のこと。華やかな銀座に夜中の10時過ぎに車で靴の納品に行った。芸能人の人が多くて、たまたま自分も昭和の大歌手の仕事もした」と、昔を懐かしむ。

足の採寸。足長だけではない、細部のデータをとる

足を触って、その人の足の特徴や悩みを把握。

絵を描きながらデザインの検討をする

仮合わせをした後、底とかかとを付けて納品

 

足型をとるとは

どういうことか

「私はまず足型をとる前に、お客様の足を触らせてもらう」と佐藤さんは言う。そうすると固い場所がわかり、足の特徴が掴めるからだ。例えば、10代にスポーツをやっていた人はかかとが非常に細く、前の幅は広くて重心が前にいっている人が多いという。

「既成の靴は幅で買うのですが、幅で買うと結局合わないことも多い。一番大事なのは、踏まず上がり(指の付け根のふくらみ部分)から、かかとの中心までの距離で、それが足とちゃんと合っていないと、靴の中で足がずれてしまう」のだという。

「私の木型の場合、靴の幅のサイズは、ABCDE2E、3E、4Eの8段階あります。さらに踵のサイズも合わせなくてはいけません。それぞれの幅が合っている靴は、食いつきが全然違うのです。そうすると、前と後ろの幅が合った木型を作らないといけないのですが、うちはそれらの木型を揃えているので、その在庫が膨大になってしまうのです(笑)。また、足長はクォーターサイズで、1センチの4分の1、2分の1、4分の3で刻むのです」と、ここまで聞いて、それ以上頭で理解しようとするのは諦めた。

佐藤さんは、お客さんの足を触らせてもらいながら、いろんな話を聞き、自分も話すことがとても楽しいという。その手から伝わる生きることの喜びや辛さも感じながら、どんな靴を作るのがその人にとって最適なのか、そんな想像力を巡らせることが天職なのだろう。靴作りを通した佐藤さんの愛が伝わった。

靴のサイズで一番重要なのは、かかとの中心と踏まず上がりの距離

 

佐藤 一男

1941年、文京区本郷生まれ。1957年、新潟で先代の事業を継承し、紳士、婦人、登山、スキー靴の製造を開始。1962年文京区に移転し、紳士、婦人靴を製造。1991年、ユニバーサルデザイン賞受賞。1995年、有限会社アルス設立。1997年豊島区補装具製作業者認定。2002年、文京区伝統工芸会匠に認定。2011年、文京区を通じて被災地の方に約450足の靴を寄贈。2013年よりつくしの会(軟骨無形成病)の支援を開始。2015年、文京区補装具事業者認定。

所在地:文京区本駒込
問い合わせ先:(有)アルス